【いい演奏をするには】 最終回:心に響く演奏を目指して – 解釈、共感、そして音楽を分かち合う喜び

「いい演奏をするには」シリーズもいよいよ最終回を迎えました。
第1回から第4回にかけて、「いい演奏」の定義から始まり、楽譜の理解(アナリーゼ)、音作り、そしてそれを支える技術について探求してきました。最終回である今回は、これまでの学びを踏まえ、どのようにして聴く人の心に響く、より深い演奏を目指すかについてお話しします。
どんなレベルであっても、「いい演奏」のゴールは、技術的な事柄のその先にあります。それは、あなたの内面にある音楽への想いを、聴いている誰かの心に届けることです。

あなたの「解釈」を大切に

第2回でアナリーゼについて触れましたが、楽譜を理解することは、あなた自身の「解釈」を生み出すための大切なステップです。作曲家が描いた世界を感じ取りつつ、あなた自身の感性を通してその音楽をどのように表現したいかを考えてみましょう。
これは難しいことではありません。例えば、

  • このメロディーは、どんな感情を表しているように感じるか?

  • このハーモニーは、自分にどう響くか?

  • このリズムは、どんな情景を思い起こさせるか?

といった、あなたの素直な感覚を大切にしてください。同じ曲でも、弾く人によって解釈は様々です。その「あなたらしさ」が、演奏に個性を与え、魅力を増します。
楽譜に書かれた指示はもちろん重要ですが、それに縛られすぎる必要はありません。その楽譜が「本当に」正確かはわかりません。作曲家がもし今生きていて、あなたの演奏を聴いたら、どんな感想を持つだろう? そんな想像をしてみるのも面白いかもしれません。あなたなりの「語り口」で、音楽の物語を紡いでみてください。音楽に「絶対間違い!」ということはありません。

音楽を通じた「共感」を生み出す

演奏は、あなたと音楽、そして聴き手との間に生まれるコミュニケーションです。「いい演奏」は、聴いている人の心に何かを伝え、共感を生み出します(「共感:曲に、聴いてる人に」)。
では、どうすれば聴き手に伝わる演奏ができるのでしょうか?

  • 音楽を「歌う」気持ちで弾く: ギターの音を、まるで自分の声のように捉えてみましょう。メロディーがどのように歌われたいかを感じ、その息遣いを指先で表現します。

  • 感情を込める: 曲が持つ喜び、悲しみ、穏やかさ、情熱など、様々な感情を自分の中に取り込み、音として表現することを恐れないでください。

  • 聴き手を意識する: 目の前に聴いてくれる人がいるなら、その人たちに何を届けたいか、どんな気持ちになってほしいかを考えて弾くことで、演奏に自然と力が宿ります。

技術的な正確さも大切ですが、多少のミスがあっても、音楽への深い愛情や伝えようとする熱意が感じられる演奏は、聴き手の心を打ちます。「音楽が好きだ」というあなたの気持ちを、音に乗せて届けましょう。

本番の力 – 音楽と自分を信頼する

人前で演奏するのは、多かれ少なかれ緊張するものです。しかし、その緊張すらもエネルギーに変えることができます。本番で「いい演奏」をするために大切なのは、練習で培った技術や音楽への理解、そして何よりも「音楽と自分を信頼する」ことです。

  • 準備をしっかり行う: 練習の段階で、難しい箇所を克服し、曲全体を通して弾き込めているという自信が、本番での安心感に繋がります。

  • 完璧を目指しすぎない: 本番でミスをゼロにすることはプロでも難しいことです。「完璧でなくても、今の自分にできる最高の音楽を届けよう」という気持ちで臨みましょう。

  • 音楽に集中する: 演奏が始まったら、ミスを気にしたり、評価を気にしたりするのではなく、目の前にある音楽に集中しましょう。音がどのように響き、音楽がどこへ向かっているのかに意識を向けることで、自然と指が動きます。

  • 本番を楽しむ: せっかく音楽を披露する機会です。緊張する気持ちを認めつつ、「この素晴らしい音楽を皆と分かち合える喜び」を感じるように努めましょう。

音楽を分かち合う喜び

クラシックギターは一人でも十分に楽しめますが、誰かに聴いてもらうことで、音楽は新たな輝きを放ちます。家族や友人に弾いて聴かせたり、発表会やコンサートに参加したり(アマチュア向けの機会はたくさんあります!)することで、音楽を通じた豊かなコミュニケーションが生まれます。あなたの演奏が、誰かの心を少しでも動かすことができたら、それは何物にも代えがたい喜びとなるはずです。

最後に

このシリーズでは、「いい演奏をするには」というテーマを通して、音楽的な側面から、(ほんの少し)技術的な側面から、そして心構えまで、様々な角度からクラシックギターの演奏を探求してきました。
「いい演奏」への道に終わりはありません。常に新しい発見があり、学ぶことがあります。今回お話ししたことが、皆さんの日々の練習や、音楽との向き合い方において、少しでもお役に立てれば幸いです。
これからも、クラシックギターという素晴らしい楽器を通して、音楽を深く味わい、あなたらしい「いい演奏」を目指す旅を楽しんでください。
あなたの音楽が、いつもあなた自身と、そして周りの人々を豊かにすることを願っています。

主よ、人の望みの喜びよ BWV147 / J.S.バッハ

アンコールは、教会カンタータHerz und Mund und Tat und Leben (心と口と行いと生活で)BWV147よりJesus bleibet meine Freude(イエスは変わらざるわが喜び)、と言われてもピンとくる人は少ないでしょうね。英語、Jesu, Joy of Man’s Desiringから訳された「主よ、人の望みの喜びよ」の方が馴染みがありますね。

バッハの作品の中でも人気があるので様々なアレンジがありますが、M.ヤヌスが歌詞を書いた讃美歌の部分を、キリスト教系の高校のとき陸上部なのに合唱部に駆り出されるくらい歌が上手な岩﨑さんにお任せする編曲にしました。
ブラームスと同じで、もともと私がソロでも弾いていたのですが、二人で弾けば原曲に近いことができるはず、という狙いです。

フランス組曲 No.4 BWV815より / J.S.バッハ

バッハ縛りの後半はお互いのソロの後、6弦をEに上げて(前半からここまでずっとD-durかmollでした)フランス組曲第4番。組曲なのにプレリュードがなくていきなりアルマンドでスタートです。アレンジを迷って二種類作って、岩﨑さんにどちらがいいか決めてもらいました。出だしの音形をプレリュードっぽくアルペジオ風にするか、アルマンドの付点のリズムにするか。こういうのが編曲の醍醐味ですね。

フランス組曲のギターデュオ版の楽譜は昔からありましたが「ただ右手を1st,左手を2nd.に分けただけ」に感じたので、どちらのパートも対等に、まるで会話をしているように聞こえることを目指して楽譜にしました。

全曲だと結構長いので、今回はアルマンド、クーラント、サラバンド、ガヴォット、ジーグを演奏しました。

ピアノソナタ No.14 Op.27-2「月光」/ L.ベートーヴェン

3曲目、前半の最後はベートーヴェン。
“Sonata quasi una Fantasia”まるで幻想曲のようなソナタという添え書きがある第14番のピアノソナタ。「月光」と言うと日本のギター弾きはF.ソルのエチュードOp.35-22を想起しますが、このピアノソナタはドイツの音楽評論家、詩人ルートヴィヒ・レルシュタープがベートーヴェンの死後5年が経過した1832年、第1楽章がもたらす効果を指して「スイスのルツェルン湖の月光の波に揺らぐ小舟のよう」と表現したことに由来する通称で親しまれています。

私は毎月「すたじおGランチタイムコンサート」というのをツイキャスで配信しています。毎回前半はプチジャンという19C.ギターでF.ソルの作品を順番に演奏したりというソロ、後半は下関市からわざわざお越しくださる中野義久さんとのデュオでここのところは横尾幸弘氏の編曲による作品をお届けしています。2024年8月のvol.85では月光ソナタの一楽章を演奏しました。

一楽章を弾いたら残りも弾きたくなって編曲しました。なので、第一楽章は殆ど横尾編です。少しだけ手を加えました。三楽章はピアニストにとっても難曲のようです(どっかの動画で100万人に一人しか弾けない、とか言ってるのはどうかと思います)が、二人で手分けしてなんとか弾いてみました。今回のコンサートが初お披露目でした。練習に一番時間がかかりました。岩﨑さんには負担をかけてしまいました。